1 うちの会社は、どこにある?
コロナ禍前のJR新橋駅かいわいでは、夜のとばりが下りる頃になると、
居酒屋が活気づきました。
ほろ酔いが回り出すと、「うちの会社はさぁ…」
と、サラリーマン談議がぽつぽつと始まります。
「うちの会社」とは言っていますが、大体は「うちの職場」
のことで、より正確には、「うちの」ではなく、「勤め先の」です。
つまり、「うちの会社はさぁ…」を意訳すると、
「勤め先の職場では…」となります。
このように私たちは、「職場」も「会社」も、
勤め先という意味合いで、あいまいに使うことがあります。
その一方で、
「やっぱり、「職場」の人間関係が煩(わずら)わしくなって、
「会社」を辞めたよ。」
のように、うまく使い分けたりもします。
そこで今回は、「職場」との相性について
思いをめぐらしてみましょう。
2 会社の全容を眺める
まず手始めに、会社組織の視点から、とらえます。
ピラミッド組織の頂点に立って眺めると、組織の全体が「会社」
そのものです。
会社組織を運営しているのは、取締役会等の経営陣で、
その下(もと)に、具体的な業務を担う組織(部、課、室、係)
が配置されています。
「職場」とは、「従業員が実際に事務や作業を行う場所」で、
会社組織上、課、室、係などの単位を指します。
3 ひとり一人、「職場」の風景が違う
ところが、実際の場面になると、
直属の上司とは、毎日顔を合わせるけど、
部長や次長、課長には別の部屋が用意されていたりと、
マチマチです。
ですから、従業員それぞれの目線では、むしろ、
「上司や同僚などのうち、顔と名前が一致する領域」
が、その人間関係に影響を及ぼすおそれのある、「職場」です。
その意味で、従業員ひとり一人、
「職場」の風景が違って見えることになります。
そして、顔と名前が一致するような、
身近な上司や同僚との間柄だからこそ、
人間関係が煩わしくなったり、行き詰ったりするわけです。
4 法律に登場する「職場」
それでは次に、雇用関係の法律の中から、
「職場」が登場する条文を、抜き出してみましょう。
最初は、パワーハラスメントに関する条文から。
〇 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の
充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)
(雇用管理上の措置等)
第30条の2 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景
とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
その雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者
からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の
雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
(第2項から第6項まで 略)
本条は、事業主による職場のパワーハラスメントを防止するための措置
について規定したものです。
次に、セクシャルハラスメントに関する条文。
〇 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
(昭和47年法律第113号)
(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
第11条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用
する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、
又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのない
よう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制
の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
(第2項から第5項まで 略)
本条は、事業主による職場のセクシャルハラスメントを
防止するための措置について規定したものです。
パワーハラスメントやセクシャルハラスメントという、
ハラスメント(嫌がらせ、いじめ等)のケースでは、
「ハラスメントの問題が起きやすい場所を「職場」と考える。」
というように、
「職場」の見方を逆さまにすれば、腹落ちしやすいでしょう。
最後に、青少年に関する条文。
〇 青少年の雇用の促進等に関する法律(昭和45年法律第98号)
(事業主等の責務)
第4条 事業主は、青少年について、その有する能力を正当に評価する
ための募集及び採用の方法の改善、職業の選択に資する情報の提供
並びに職業能力の開発及び向上に関する措置等を講ずることにより、
雇用機会の確保及び職場への定着を図り、青少年がその有する能力を
有効に発揮することができるように努めなければならない。
(第2項 略)
本条は、青少年について、事業主による「職場への定着」に関する
努力義務を規定しています。
職場への「定着」の反対語は「離職」ですから、
青少年が職場を早期離職しないよう、
配慮を求めていることになります。
上記3つの規定の裏を返せば、
ハラスメントや早期離職などの問題は、まさに、
「職場」が舞台となって起きることを想定しています。
5 就職や転職をするときの落とし穴
就職や転職の際、通常であれば、
相手先企業の人事担当者に面会する機会がありますが、
仮にその方の印象が素晴らしくても、
実際の配属先は、別の部署になります。
たとえ、一流とされる大企業に就職や転職が内定したとしても、
実際の仕事は、配属先である職場で行います。
ですから、仕事のパーフォーマンスは、同じ職場の上司や同僚との
人間関係に相当依存せざるを得ません。
仮に、配属先を事前に知っていたつもりでも、自らの性格が、
その職場の雰囲気や個々の人間関係にマッチングするかまでは、
保証の限りではありません。
すなわち、
「 就職や転職をするとき、勤め先の職場における
人間関係の善し悪しまでは分からない。」のです。
就職や転職をする際には、胸躍る心持ちになりますので、
「職場」という落とし穴に気づきにくくなります。
この理(ことわり)を、企業の人事担当者は、
「職場の人間関係は、どこに行っても同じ。」
という言葉で表します。
これは、
「職場の人間関係は、似たり寄ったり。」
という上っ面の話に止まらず、人間関係の本質に迫って、
「どのような職場に移ろうとも、最適な人間関係など存在しないし、
馬が合わない、付き合いにくいタイプの上司や同僚が必ずいるもの。」
という意味合いでこそ、
中身の伴う箴言(しんげん)となります。
6 最良な「職場」を探すのか、それとも…
人の性格は十人十色と言われますが、相手との相性となると、
その人間関係の数は、10人から2人を選ぶ組合せとなるので、
₁₀C₂=45通りです。
さらにそれぞれ、「類は友を呼ぶ」のごとく、
複数人でつるむことがあるので、
その組合せは飛躍的に多くなります。
その上、相性ひとつとっても、様々な見方があるでしょう。
そうしてみると、
「万人にとって、良い職場とか、悪い職場はない。」
ことに気づかされます。
どの職場にも、馬が合わない、付き合いにくいタイプの上司や同僚が
いるのですから、掘り下げて考えると、同じ職場でも、
「良い職場と思っている人と、悪い職場と思っている人がいる。」
だけなのかも知れません。
裏を返せば、職場との相性ではなく、
あなたの相性が職場に親和的か、ということです。
とすると、最良の「職場」を探し求めるよりも、
自らが職場の雰囲気を安らかで朗らかにする人柄になるほうが、
「職場」ライフを、つつがなく愉しく過ごせそうです。
ふと、「職場」との相性が気になったら、
あえて自らの人となりに目を向けて、
あなたの知らない扉を共に開けましょう。
以上