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ふと、職場で感じる「なぜ」や戸惑いを、スッキリさせるブログです

【第8回】ふと、求人情報誌の「アットホームな職場」が気になったら 

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1「at home」 な職場 

   “at home”を和製に訳して、「家庭的な」(英語ではcozyとかhomey
という意味にとらえると、「アットホームな職場」とは、
「自宅にいるかのようにくつろいで、気兼ねなく仕事を進められる職場」
あたりが穏当でしょう。

 この「アットホームな職場」は、ときどき求人情報誌に現れます。
 企業の人事担当者が、求人情報誌に掲載を依頼する際、求職者に向けて
自社の魅力を訴求するために書き込む言葉です。

 今回は、この「アットホームな職場」について、思いをめぐらして
みましょう。

 

2 前向きな見方からは  

 例えば昭和の時代、「アットホームな職場」と聞けば、あっけらかんと、次のような職場をイメージするかと思います。

・ 職場の雰囲気が、いつも和やか。
・ ストレスフリーな執務環境。
・ 決まったノルマに縛られることなく、従業員があくせく働いていない。
・ 従業員間の出世競争が緩やかなので、伸び伸びと仕事をしている。
・ 長期的なビジョンで、人材の育成が行われている。
・ 上司が、(親や兄姉のように)親身で、思いやりがある。
・ 分からないことがあっても、上司や同僚(先輩、後輩)に、
 気さくに尋ねることができる。
・ 従業員間の出世競争が緩やかなので、伸び伸びと仕事をしている。

 リーマンショック前の金融ビッグバン(日本版)より前の、
牧歌的な昭和の香りが漂っています。

 

3 うがった(深読みな)見方では

 ところが、令和の時代ともなると、主に若い年代層が、
「アットホームな職場」の実態に眼差しを向け、おおむね、
次のような職場をイメージしているようです。

・ 職場以前に、企業のビジネスモデルが整っておらず、
 企業に魅力がない。
・ 本当の家族による経営(同族経営)で、私用の頼まれ事が多い。
・ (勤務日外に催される)社員旅行や歓送迎会、夏のBBQ、
 冬の鍋パーティーなどに、参加せざるを得ない。
・ 経営者が、従業員の私生活に干渉する。
・ サービス残業や付き合い残業がまかり通り、
 長時間労働が常態化している。
・ 年次有給休暇制度はあるものの、年次有給休暇を取れる雰囲気でない。

 前半部分の社員旅行、旬の親睦会など、
昭和のなごりを彷彿(ほうふつ)とさせる社内行事で、
「24時間働けますか」のCM当時の心境からすると、
「むしろ、やらないほうが問題視」されたでしょう。

 一方、令和時代の若い従業員からは、
「何をか言わんや」(話にもならない)として、不評を買うのは、
時流なのかも知れません。

 

4 人事・労務管理の見方になると  

 ここで目線をずらして、人事・労務管理の立場から、眺めてみましょう。

〇 求人情報誌に「アットホームな職場」とあるので、
 職場の人間関係が濃いというニュアンスは求職者に伝わりますから、
 そうした人づき合いを望まない方は応募しないので、
 採用時のミスマッチは起きにくくなります。
〇 社内行事を通じ、お互いの性格や背景事情を心得て、
 ワンチームで組織に貢献してもらえるような人材を、
 採用したいのかも知れません。

〇 同族経営における私用の依頼は、服務規律の「職務専念義務」
 の問題になるでしょう。
〇 社員旅行やBBQなどの社内行事は、その参加が会社から強制された
 ものかどうか、という「労働時間」へのカウントの問題となります。

〇 「私生活への干渉」について、
 ・ 深酒、ヘビースモーカー、暴飲暴食など、健康面や仕事への支障
  を案じての一般的な注意喚起、
 ・ 企業の名誉を棄損したり、企業が保有する秘密を漏洩するような
  ネットへの投稿を、控えるよう諭(さと)すこと、
 ・ 勤務時間中の私的な面会や私用メール等を、諫(いさ)めること
 などは、社会モラルの範囲として許されるでしょう。
  一方で、恋愛、結婚生活などの様子を執拗に尋ねたり、
 興味本位で他人の私生活を詮索し、職場で吹聴するなどは、
 パワーハラスメントの一形態である「個への侵害」の問題になります。
 (参考1)

〇 サービス残業や付き合い残業は、時間外労働に係る賃金不払いや、
 適切な労働時間管理が問題となります。
〇 年次有給休暇については、これまでも、同僚への気兼ね等の理由から、
 取得率が低調であったので、
 今般、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、
 年次有給休暇の日数のうち年5日分について、使用者が時季を指定して
 取得させることが義務づけられました。(参考2)

 こうしてみると、「アットホームな職場」について、うがった
(深読みな)見方をした場合、
労務管理上の問題が幾つか見受けられました。 

 

5 法律に登場する「家庭的」

 法律の中では、「アットホーム」という文言は見当たりませんでしたが、
「家庭的」は、幾つか見つかりました。
 例えば、主なものとして、次の条文があります。

〇 児童福祉法 (昭和22年法律第164号)
第3条の2 国及び地方公共団体は、児童が家庭において心身ともに
 健やかに養育されるよう、児童の保護者を支援しなければならない。
 ただし、児童及びその保護者の心身の状況、これらの者の置かれている
 環境その他の状況を勘案し、児童を家庭において養育することが困難
 であり又は適当でない場合にあつては児童が家庭における養育環境と
 同様の養育環境において継続的に養育されるよう、
 児童を家庭及び当該養育環境において養育することが適当でない場合
 にあつては児童ができる限り良好な家庭的環境において養育されるよう、
 必要な措置を講じなければならない。

 ただ本条は、本来の「家庭」を基にした「家庭的」という用例で、
この記事の主旨とは趣を異にしています。


6 誰がための「家庭的」か  

 考えるまでもなく、生まれ育った家庭環境や実社会での経験が同一の人物
は、皆無なのですから、各人が抱く「家庭」のイメージも千差万別です。

 そうすると、前述のうがった(深読みな)見方をした項目のうち、
〇 私生活への干渉は、
 「子どもの生活態度や受験に過干渉な親御さんは、
  少なからずいるでしょうし、
  家庭内では家族のプライバシーが守られていない。」
 という家庭像が背景にあるのでしょうか。
〇 また、サービス残業や付き合い残業は、
 「家族ひとり一人が、昼夜の別なく、家庭のために深夜遅くまで
  働く(勉強する)ことが望ましい。」
 という家庭像を、
〇 年休が取得しがたい点は、
 「家族は、家庭のためにひたすら労働(勉強)するもので、
  休養することがあってはならない。」
 という家庭像を前提にしているのでしょうか。

 千差万別な家庭のイメージがあるにせよ、
上記の3つの家庭像をミックスすると、
人間らしい温かみのない奇妙な家庭に映ります。   

 「アットホームな職場」という名の下における、
私生活への干渉、サービス残業やつきあい残業、年休が取得しがたい点
などは、本当の家庭や家族を大切にしない、
似非(えせ)の「家庭的な」職場ということでしょう。

 ふと、求人情報誌の「アットホームな職場」が気になったら、
誰がための「家庭的」かを見極めつつ、
あなたの知らない扉を共に開けましょう。

以上

 

  以下、備忘としての参考です。 

(参考1)パワーハラスメントに関連する法令改正の動き
・ 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正
 する法律(令和元年法律第24号)第3条により、
 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の
 充実等に関する法律の一部改正が行われた。
・ 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活
 の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号) 第30条の2
・ 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する
 問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針
 (令和2年厚生労働省告示第5号)2(7)
・ 令和2年6月1日施行。
  ただし、中小事業主は、令和4年3月31日まで努力義務。

(参考2)年次有給休暇に関連する法令改正の動き
・ 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律
 (平成30年法律第71号)第1条により、
 労働基準法の一部改正が行われた。
・ 労働基準法 (昭和22年法律第49号) 第39条
・ 平成31年4月1日施行。