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ふと、職場で感じる「なぜ」や戸惑いを、スッキリさせるブログです

【第9回】ふと、職場の符丁が気になったら 

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  落語家の符丁(ふちょう)で、
「兄さん」と呼べば「兄弟子」を意味するように、
それぞれの業界や職場には、
独特の言い回しがあったりします。

 ただ、同じ業界であっても、企業ごとに言い回しが少し違うも、
符丁の醍醐味でしょう。
 こうした符丁(隠語)は、顧客への接客マナーの一環であったり、
やや悪事じみた使い方かも知れません。

 今回は、ビジネスパーソンが、業界の符丁を体験する物語風
に仕上げてみました。

職場の符丁? 

  経営学を専攻したAさんは、専門商社に入社して早3年。
 商社らしく、いろいろな業界人と知り合えることが多かった。

タクシー乗務員の符丁 

  先日、物流関連のお得意先と、タクシーに同乗していたとき、
不意にタクシーの無線音が聞こえ、
運転している乗務員さんに、
「トンネル下の信号付近が工事中です、注意してください。」
と伝えていた。

「やっぱり、年末は、どこかしこに道路工事が多いですね。」
とAさんが言うと、隣のお得意先は、ちょっと笑いながら、
「トンネル下の信号付近で警察の取締り(検問)中です、
という意味じゃないかな。」
と話してくれた。

 どうも、タクシー業界では、
「工事中」と言えば「取締り」のことで、
本当の工事ならば、「本工事中」と伝えるらしい。

 また、
「 高崎駅付近で大きな忘れ物をしたお客様は、
 帽子をかぶった小柄な女性で、赤いスカート柄の…」
などの無線が入れば、さしずめ、
「 県警からの捜査協力として、
 逃亡犯の女性が高崎駅付近で目撃され、その特徴は…」
 という情報を伝えているのかも知れない。

医療従事者の符丁 

 タクシーを降りて、お得意先と別れたAさんは、
幼なじみのお見舞いに、総合病院に入館した。

 5階のスタッフ(ナース)ステーションの看護師さんたちが、
「 そういえば、514号室の患者さん、
 昨晩遅くに、ステったんですって。」
「 そうだったの。昨日は私が担当で、申し送りをしたんだけど…
 あっ、これから、エッセンに出かけてきますね。」
と話していた。

 この会話を耳にしたAさんは、
「 えっ?患者さんが滑って、昨晩は大騒ぎになったんだ。」
と思ったが、後に、入院している幼なじみから、
「 ドイツ語でsterbenとは「死ぬ」、essenは「食事する」を
 意味するので、その看護師さんたちは、
『 昨晩、あの患者さんが亡くなったわ。』、
『 そうだったの。(エンゼルケア、お疲れさまでした。)
 これから、食事休憩に行きます。』
と話していたんじゃないかな。」
と教えてもらった。

すし職人の符丁 

 お見舞いを終えたAさんは、出先の奥方と合流し、
少し小腹が空いていたので、
蓮向かいにある、昔ながらの寿司屋に一緒に入った。

 隣のカウンター客が、縁起を担いだのか、
出世魚の『スズキ』と『小肌』、ちょうだい。」
と、目の前の板さんに注文したところ、
奥の方から大将(板長)らしき人物が、
「やま」と、太い声で合図をしていた。

 いぶかしげに、
「山?」
とつぶやくAさんを、横で見つめていた奥方は、
「山には海産物がないでしょ。きっと、ネタ切れなのよ。」
と耳元でささやいた。

「小肌もないか…それじゃ、サワラを炙ってください。」
と隣のカウンター客が、注文し直すと、
またしても、
「右に兄貴があるよ。」
と、大将が板さんに合図をした。

「 寿司屋で「兄貴」と言えば、古いネタを意味するから、
『右側に古いサワラが残っているので、そちらから炙って。』
 という意味だわ。」

 小声で翻訳する奥方を見つめながら、Aさんは、
「いつも高級寿司屋に出かけているのかな?」
と、さらに、いぶかしがるのであった。

 百貨店の符丁 

 腹ごしらえが終わったAさんは、お歳暮の準備を兼ねて、
奥方と一緒に、銀座のほど近い百貨店に入ると、
持ち場の社員さんたちが焦った様子で、
「五八様なので、ベテランのBさんに替わってもらわないと…」
と話していた。

「日本には、変わった苗字の方もいらっしゃるんだね。」
と能天気なAさんに対して、ややあきれ顔の奥方は、
「『五八様』って、5×8=40で、
 始終(しじゅう)来てくれるお客さんだから、
『お得意さんがいらしたので、付き合いの深い、
 ベテランのBさんを、呼んでこなくちゃ。』
 という意味じゃないかしら。」

 Aさんが奥方の知見の広さに感心していると、
場内アナウンスが流れてきた。
「川中様、川中様、3階5番窓口までお越しください。」

 ここに至り、さすがにAさんは奥方のほうを振り向き、
「 買い物をし過ぎて、忘れものをした、
 という連絡事項じゃないんでしょ。」
「 あら、勘が冴(さ)えているわね。
 おそらく、『川中様』は「買わなかった客」だから、
『3階5番窓口付近で万引き客があった。』
 という緊急通報だわ。」

 その日を境に、Aさんは、「職場の符丁」への関心が
急に冷めていくのを感じました。
 実社会の裏舞台って、そんなに愉しいものじゃないと
気づいてしまったからです。

 ただ、翌日以降、Aさんがランチに出かけるとき、
職場の同僚に向かって、
「これから、5番(ご飯)に行かけてきます。」
と伝えるのが習わしになったそうです。

以上