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ふと、職場で感じる「なぜ」や戸惑いを、スッキリさせるブログです

【第10回】ふと、職場のもめ事と労働法が気になったら

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 これまで、職場の人間関係をめぐって、
〇 【第3回】の「職場の人づき合い」では、
・ 「仲良く」の本義、
・ 君子と小人の違い、
・ 奥義「淡きこと水の如し」を、
〇 【第7回】の「職場との相性」では、
・ 身近な職場で起こる人間関係トラブル、
・ 労働法に登場する「職場」を
取り上げてきました。 

 今回は、それらの続編として、
職場における人間関係のもめ事と労働法
について、思いをめぐらしてみましょう。
 タイトルでは「職場のもめ事」と端折っていますが、
殊に、「人間関係」のもめ事を扱います。

1 職場における人間関係のもめ事とは…

  一口に、「職場における人間関係のもめ事」と言っても、
つかみどころがないので、大雑把に、その対象を絞りましょう。

 まず、「職場」におけるもめ事ですから、
会社と従業員(労働者)との間のトラブルや
労使紛争は除きましょう。

 例えば、賃金の未払いや遅配、残業する際の
36協定の未締結などの労働基準法上の問題や、
労働者の健康確保措置の不備などの労働安全衛生法上の問題、
不当労働行為といった労働組合法上の問題は、
対象から外します。

 また、「人間関係」のもめ事なので、
会社取引上のトラブルも除きます。

 次に、「職場における人間関係のもめ事」を、
どのような観点から分類できるのかを、整理してみましょう。

 まず、「職場」のもめ事なので、社内の職制に着目すると、
上司や部下、同僚、社外(取引先、顧客等)
との間のもめ事に分けられます。

 次に、「人間関係」のもめ事なので、もめる事柄に着目すると、
能力評価や執務中の言動、懇親会、恋愛など
に関するもめ事に分けられるでしょう。 

2 もめ事の具体例

  先ほどの分類を念頭に置いて、思いつくままに、
「職場における人間関係のもめ事」をざっくりと分けてみました。

(1)上司をめぐる不平不満 

 職場の人間関係で避けて通れないのが上司の存在。
 部下からみれば、仕事を指示する上司とは
部分的に利益相反の関係となり得る上に、なぜか、
上司の動静や人柄が手に取るように見えるものです。

 ありがちな不平不満の例としては、
〇 直属の上司は、口だけ番長で、仕事を部下に丸投げする。
〇 ライン長は、段取り八分を弁(わきま)えず、
 〆切り間近になると、部下が尻ぬぐいをさせられる。
〇 中年の上司は、新卒の部下の恋愛関係に興味津々な様子。

(2)部下をめぐる不平不満

 上司にとってみれば、有能な部下がいると仕事がはかどるし、
従順な人柄であれば指示もしやすい。

 なので、ありがちな不平不満の例としては、
〇 日頃から、ホウレンソウ(報告、連絡、相談)が出来ず、
 その度に督促しなければならない。
〇 幾度注意しても、反抗的な態度である上に、
 同じようなミスを繰り返す。

(3)同僚をめぐる不平不満

 上下関係がなくとも、職場における人間関係のもめ事は
尽きることがありません。

 ありがちな不平不満の例としては、
〇 同性の同僚が休憩中に社内の噂話ばかりして、
 ウマが合わない。
〇 旅行のため年休を取ろうとしたら、
 途端に同僚が嫌そうな顔になった。
  確かに、人手が必要な日だが、
 前々からの旅行計画なので仕方ない。

(4)恋愛をめぐる不平不満

 社内恋愛は、職制の観点からとらえきれない事柄
の代表格です。

〇 結婚を前提に付き合っていた職場の彼氏と別れてしまった。
 しばらくして、元彼には恋人が出来たらしく、
 向かい合わせに座って仕事をするは辛い。
〇 職場で二股をかけていたのが、不覚にも知れ渡ってしまった。
 日々、同僚にジロジロ見られ、廊下を歩くと、
 同僚同志の話が急に止むので、落ち着いて仕事ができない。

(5)催しをめぐる不平不満

 かつての社員旅行、いまの懇親会は、特に若い方に不人気です。

 ありがちな不平不満の例としては、
〇 親しい同僚もいないのに、親睦会へ参加しなければ
 いけないような職場の空気が嫌。
〇 休日や祝日に、職場主催のBBQや鍋パーティー
 頻繁に開催される。

(注)上記の具体例は、あくまでイメージで、
   実体験に基づくものではありません。
   不平不満には個人差があります。
 

3 もめ事と労働法との関係

 それでは、上記2のもめ事の具体例は、
労働法の問題になるのでしょうか。

 そこで、「職場」で起こり得る労働法の問題として、
対人関係でもめやすい、
セクシャルハラスメントパワーハラスメント
取り上げてみましょう。 

(1) セクシャルハラスメント 

〇 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保
 等に関する法律 (昭和47年法律第113号)
 (職場における性的な言動に起因する問題に関する
  雇用管理上の措置等)
第11条 事業主は、職場において行われる性的な言動
 に対するその雇用する労働者の対応により
 当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、
 又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が
 害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、
 適切に対応するために必要な体制の整備その他の
(第2項から第5項まで 略)

 ここで、セクシャルハラスメントの要件を
明らかにするために、同条第1項をて適当に分解し、
必要な箇所を取り出すと、次のようになります。

「事業主は、」⇒(措置義務の主体)
「職場において行われる」〔要件1
 ⇒(職場+出張先等)
「性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により」
 〔要件2
 ⇒(例えば、拒否や抵抗をされたなど)
「当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、」
 〔要件3①〕
 ⇒(対価型の例 解雇、労働契約の更新拒否をされるなど)
又は、
「当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害される」
 〔要件3②

 ⇒(環境型の例 就業環境が不快となって、能力の発揮に
   重大な悪影響が出るなど)
「ことのないよう…」⇒(措置の内容) 

(2) パワーハラスメント 

〇 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定
 及び職業生活の充実等に関する法律
 (昭和41年法律第132号)
 (雇用管理上の措置等)
第30条の2 事業主は、職場において行われる
 優越的な関係を背景とした言動であつて、
 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
 その雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、
 当該労働者からの相談に応じ、
 適切に対応するために必要な体制の整備その他の
 雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
(第2項から第6項まで 略) 

 パワーハラスメントの要件を明らかにするために、
同条第1項を適当に分解し、必要な箇所を取り出すと、
次のようになります。 

「事業主は、」⇒(措置義務の主体)
「職場において行われる」
 ⇒(職場+出張先等)
「優越的な関係を背景とした言動であつて、」〔要件1
 ⇒(抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係
   を背景としてわれるもの)
「業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより」〔要件2
 ⇒(社会通念に照らし、明らかに業務上必要性がない、
   又はその態様が相当でないもの)
「その雇用する労働者の就業環境が害される」〔要件3
 ⇒(労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、
   就業環境が不快なものとなったために
   能力の発揮に重大な悪影響が生じる等)
「ことのないよう、…」⇒(措置の内容) 

(3) 労働法との関係

 上記(1)及び(2)で述べたように、
セクシャルハラスメントパワーハラスメントは、
それぞれの要件が明確になっており、
上記2の具体例のうち、
(1)の「上司をめぐる不平不満」の中に、
それっぽい事例が見られますが、
そのまま当てはまるとは言えないでしょう。

 もちろん、それも程度問題で、
それらのもめ事が深刻化してゆけば、
セクシャルハラスメントパワーハラスメントとして、
労働法上の措置義務が生じることもあります。

 ところで、このように説明しますと、
所属する学部によって、考え方にズレが生じます。 

 法学の専攻ですと、
要件に該当するか否かに神経が集中するので、
「さっきの職場における人間関係のもめ事の具体例では、
そもそも、個々の条文の要件に該当しないよ。
これで論点は決着。それじゃ、アミーゴ!」
となりがちです。

 一方、経営学の専攻ですと、組織の存続に頭が働くので、
「職場における人間関係のもめ事が、
業務の遂行を阻害するならば、
労働法の要件に当てはまらずとも、
貴重な経営資源の無駄使いになる。
 そうした場合、どのような人事・労務管理をすべきなのか?」
とくるわけです。 

4 もめ事に対応する際の定石 

 人事・労務管理の担当者として、
人間関係のもめ事の直面した際に大切なことは、
もめ事に対応する際の普遍的なロジックを持つことです。

 もめ事への対応に類似する、民事裁判の例を挙げると、
裁判官が判決を下す際の思考回路(judge)には、
2段階あります。それは、
事実認定」と「法的判断」です。

 ただ、ここでは、労働法のまな板にのらない程度の
職場内の人間関係のもめ事を扱っているので、
厳格な証拠法則に基づく「事実認定」までは求められず、
通常の「事実の確認」で足りるでしょう。

 また、職場内の人間関係のもめ事への対応ですから、
「法的判断」は求められておらず、人事・労務管理上の
適切な判断と対処」で足りるでしょう。 

 これらをまとめると、次のように言い換えられます。
事実認定」⇒「事実の確認
法的判断」⇒「適切な判断と対処」 

 そして、「事実の確認」や「適切な判断と対処」に当たっては、
公平(偏っていない)かつ公正(不正がない)な立場が前提です。

 こうしたロジック(枠組み)を根本に据えると、
職場において人間関係のもめ事が生じた際、
人事・労務管理の担当者の立場であれば、

① もめ事の当事者や第三者からの丁寧に聴き取りを行い、
 重要な証拠を取りまとめ、
② 人事・労務管理上、適切に判断し対処する
という段取りを踏むことになります。 

 仮に、
もめ事に直接かかわりのない周囲の従業員の立場であれば、
前述のロジックに倣(なら)って、
もめ事に対し、できるだけ公平かつ公正な観点に努めつつ、

① 噂に踊らされず、自ら確認できる事実に基づいて、
② もめ事の本音を推測し、当事者と相応の距離を置く
という考え方もできるでしょう。 

5 職場は流転する

  小中学校の頃、次の学年に上がる度にクラス替えが行われ、
誰がクラスメートになるのか気になったものです。
 職場も似ていて、とどめなく、従業員が入れ替わります。

 ですから、職場における人間関係のもめ事も、その当時は、
ガチガチに職場にこびりついているように感じますが、
数年のスパン(期間)でとらえると、
周りが異動したり、退職したりして、
人間関係のもめ事も、変幻自在に移り変わっています。
 課室長が異動になっただけで、職場の雰囲気がガラリと
変わることも珍しくありません。

 その意味で、職場における人間関係のもめ事は、
人の出入りが絶えない職場というブラックボックスの中で、
偶然に組み合わされた従業員同士のウマが合わなかった
という状態が生み出した不整合のひとつなのかも知れません。

 であるならば、ひとつ一つのもめ事に悩まされることなく、
時の流れを活用しながら、受け流す手もありますし、
もめ事に対処する前述のロジックや処世術を身に付けて、
適切に対処することもできるでしょう。

 「もめ事がない職場はない。」という心構えでいたとしても、
身近な職場でもめ事が起きると、やはり悩ましいものです。 
 もめ事に対応する際のあなたらしい定石を探し当てて、
あなたの知らない扉を一緒に開けましょう。

以上